確認日:2026年10月21日
この記事は、戸建て・集合住宅に住む一般家庭の方に向けて、災害用トイレの必要な回数の目安、種類の違い、使用後の処理をまとめたものです。地震のあと、自宅の便器が壊れていなくても、水洗トイレを使えない場合があります。流す水がないだけでなく、排水管や下水道が傷んでいることもあるためです。「風呂の残り湯があるから流せる」と判断せず、水を流さずに使うトイレを家族の人数に合わせて備えておきましょう。
断水だけが、トイレを使えなくする原因ではない
水洗トイレは、給水から排水・処理までの仕組みがつながって初めて使えます。内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」は、断水や停電、下水道・浄化槽(下水道につながっていない建物や地域で、汚水をきれいにする設備)の破損などを、トイレの利用を妨げる要因として挙げています。水が確保できても、排水先が破損している場合は使用を中止する必要があります。[1]
これは、断水したらどんな状況でも水を流してはいけない、という意味ではありません。ただし、災害直後に家庭だけで見えない配管の安全を確かめることは困難です。排水設備が使えるという確認と、便器の機種に合った使用方法の両方が必要になります。
残り湯で流す方法を試す前に、自治体・水道や下水道の管理者の案内、集合住宅なら管理会社などの点検結果を確認してください。再開できる場合も、便器の取扱説明書に従いましょう。使えるか分からない間は、携帯トイレなどに切り替える備えが役立ちます。
集合住宅では、下の階への漏水にも注意
マンションなどでは排水管を複数の住戸が共用しています。地震で排水設備が傷んだ状態で上階から水を流すと、下階に汚水が漏れたり、トイレからあふれたりするおそれがあります。横浜市神奈川区は、管理会社の点検が終わるまで排水しないよう案内しています。[3]
蛇口から水が出ることや、自宅の便器にひびがないことだけでは、排水設備の安全は判断できません。トイレだけでなく、風呂や台所の排水も同じ問題に関わります。平時に管理組合・管理会社へ、災害時の使用停止と再開の連絡方法を確認しておくと行動しやすくなります。
戸建ても例外ではありません。下水道や浄化槽に被害がある場合に備え、地域からの情報を受け取れるようにしておきましょう。
自宅で避難生活を続けるときの全体の備えは、在宅避難の記事で紹介しています。
備蓄の目安は1人1日5回分、7日分なら35回分
内閣府のガイドラインは、自治体が避難所などのトイレの備蓄・確保計画を作る際、平均的な使用回数を1日5回とするよう示しています。家庭向けには、経済産業省が1人当たり35回分、7日分の災害用トイレ備蓄を呼び掛けています。[1・2]
必要量は「1日の回数×人数×備える日数」で計算できます。1人1日5回で7日分を用意するなら、1人暮らしは35回分、2人暮らしは70回分、4人家族は140回分です。
これは平均値からの計算例で、全員が1日5回に収まるという意味ではありません。普段の排泄回数、体調、介助の有無などを考え、余裕を持って増やしてください。乳幼児のおむつや介護用品も、家庭に合った数量を別に確認します。
横浜市は「1人1日5セット×最低3日分」を示し、できれば7日分を備えるよう案内しています。3日分の計算なら4人で60回分ですが、それで必ず足りるとは限りません。少量から準備を始めても、7日分を一つの目標にして買い足しましょう。[4]
また、「50回分」という表示を見たら、袋・凝固剤など何が50回分入っているかを確認してください。便座が一つあっても、処理袋が不足すれば使い続けられません。トイレットペーパー、処理用の袋、手指の衛生用品も一緒に用意します。
携帯トイレと簡易トイレを使い分ける
まとめて「簡易トイレ」と呼ばれることもありますが、内閣府のガイドラインや西東京市の案内では区別されています。西東京市は、自宅の洋式便器に付けて使う便袋を「携帯トイレ」、組み立て式の便器に袋を付けて使う物を「簡易トイレ」と説明しています。[1・5]
自宅の便器とトイレ室を安全に使えるなら、袋と凝固剤(排泄物の水分を固める薬剤)・吸水シートなどを組み合わせた携帯トイレが選択肢になります。一方、便器やトイレ室に被害がある場合や、移動が難しい人がいる場合は、別の場所に置ける便座付きの簡易トイレも検討します。
凝固剤タイプと袋タイプは、必ずしも別々の商品分類ではありません。袋に排泄物を受け、凝固剤で固めるセットもあります。購入時は、大小便のどちらに対応するか、便器とのサイズの相性、便座の耐荷重や安定性、処理後のにおい対策、収納量を確認しましょう。
使い方は説明書で確認し、一度試す
便器に付ける携帯トイレは、袋を設置し、排泄物を吸収・凝固させ、袋の口を閉じて保管するのが基本です。横浜市の例では、次の流れで処理します。[4]
- 便器に袋をかぶせる。
- 使用後、凝固剤を振りかける。
- 袋の空気を抜いて口を縛り、保管場所へ移す。
ただし、凝固剤を入れる順番や必要量は製品ごとに異なるため、手元の説明書を優先してください。
便器に水が残っている場合、先に別の袋をかぶせておくと、取り出す処理袋の外側がぬれるのを防げます。水を抜こうとして不用意に排水せず、説明書に沿って設置しましょう。使用済みの袋や凝固剤はトイレに流しません。
家族で試すと、袋の固定、座りやすさ、処理後の置き場所などを確認できます。照明がない夜間にも扱えるか、子どもや介助が必要な人が使えるかも大切です。試しに使った分は補充し、説明書を用品と同じ場所に置いておきます。
保存期限は「製品ごと」に確認する
凝固剤に共通する、一律の保存期限が決まっているわけではありません。メーカーが示す対象製品と起算日、包装や保管条件を確認します。
例えばクリロン化成の「BOS非常用臭わないトイレセット」は、公式案内で交換目安を製造から約15年としています。同社は2023年に凝固剤をアルミ包装に変更し、交換目安が10年から15年になったと説明しています。これは当該製品の例で、古い仕様や他社品にそのまま当てはめられません。[6・7]
購入した日だけでなく、箱にある製造時期や交換目安を記録しましょう。包装が破れたり保管状態に問題があったりすれば、表示年数だけを頼りにせずメーカーへ確認します。食品のように日常で消費しにくい用品なので、定期点検と訓練で使った分の補充を組み合わせると管理しやすくなります。
使用後の袋は、自治体の案内に従う
使用済みトイレを、全国どこでも通常の可燃ごみに混ぜてよいわけではありません。横浜市は災害時、使用済みのトイレパック(凝固剤と袋のセット)だけを袋にまとめ、燃やすごみの収集日に出すと案内しています。一方、西東京市は災害時の便袋を優先収集するため、可燃ごみと分けて出すよう求めています。平時の訓練時と災害時で扱いが違う例もあります。[4・5]
収集が止まれば、自宅での一時保管が必要です。袋を確実に閉じ、自治体や製品の案内に沿って二重袋、消臭袋、ふた付き容器などを用意します。食品や子ども・ペットの生活場所から分け、避難経路をふさがない保管場所も考えておきましょう。
トイレ不足を理由に水分や食事を控えることは、健康被害につながるおそれがあります。回数分の備蓄、実際の使用、収集までの保管を一続きで準備することが、災害時の暮らしを支えます。[1]
出典
- [1]内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定):本文p.1・6・9(PDFの4・9・12ページ)に健康被害、排水先破損、平均1日5回。 https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/pdf/2412hinanjo_toilet_guideline.pdf
- [2]経済産業省「トイレ備蓄 忘れていませんか」:1人35回分・7日分。 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/jyutaku/toirebichiku.html
- [3]横浜市神奈川区「在宅避難について」:排水設備の安全確認、管理会社点検までの排水停止。 https://www.city.yokohama.lg.jp/kanagawa/bosai_bohan/saigai/zaitakuhinann.html
- [4]横浜市「トイレパックについて」:備蓄、設置手順、使用済みトイレの排出方法。 https://www.city.yokohama.lg.jp/bousai-kyukyu-bohan/bousai-saigai/moshimo/wagaya/jishin/bichikuhin/toirepakkunituite.html
- [5]西東京市「災害時のトイレ対策について」(2026年7月1日更新):分類、35回分、災害時と平時の分別、一時保管。 https://www.city.nishitokyo.lg.jp/kurasi/iza/bosai/saigainisonaete/saigaizinotoilet.html
- [6]クリロン化成・BOS公式「BOS非常用トイレ 使い方動画と追加情報」:製造から約15年の交換目安等。 https://bos-bos.com/saigaicolumn/2020/12/3374/
- [7]クリロン化成・BOS公式「非常用トイレセットの交換目安が15年になりました」(2023年11月22日):包装仕様変更と交換目安。 https://bos-bos.com/blog/2023/11/5399/